眼科

 見えるというのは一般的にあまりよくないことで、なぜかと言うと見たくもない物をうっかり見てしまう、そういうことが往々にして良くあるからだ。
 昔、おれがコンタクトレンズを作ろうと思って眼科に行ったときのこと。その眼科に行ったのは、すごく美人のお姉さんがいた、という友人の話があったがゆえで。話のとおり、美人のお姉さんはいて、おれのドライアイではないかという訴えに対して、おれの両目の、涙が出るところに、リトマス紙みたいなものをつっこんできた。実際は、ぴとり、とくっつけたというのがたぶん正しいかもしれないが、そのリトマス紙はおれに多大なるダメージを与えた。痛い。刺すように痛い。
 まるで目が砂漠だと考えて、涙が出るところがオアシスだとすると、わき出る水をひたすら飲み続けるラクダみたいなものが、そのリトマス紙だった。
 しばらくしてお姉さんがチェックに来た。
「大丈夫ですねー。ドライアイじゃないみたいです」
 そりゃ、痛くて涙が出た、ただそれだけじゃないのか、とおれは言いたかったが、「じゃあ、一応お薬のほう、目にしておきましょう」と手術台みたいなのに横にさせられ、ドキドキしたのでどうでもよくなった。
 そうして、コンタクトレンズを作ることにしていたのだが、結局作るのをやめて、ドライアイ向けに目薬をもらっただけでおれは帰宅した。
 そういう、最初の見たくない物をうんぬんとは、まったく関係のない話であった。