イチゴショート

 近所の喫茶店にて、カウンター席に座りココアを注文すると、後ろからみいちゃんに話しかけられた。「久々に、見た。何してたの、最近」「いつもと変わらず家でぼんやり研究したり、本を読んだり、だらだらしたり、かな」「へー、そうなんだ。あんまり家から出ないの?」彼女はコーヒーのお代わりをマスターに注文しつつ「不健康的だから、たまには出るようにしたほうがいいよ、ここにくるだけでも運動になるだろうし」ぼくは、そうだなあ、としみじみ思った。「うん。ちゃんと来ます」「うん。おけ」ブラックコーヒーをよく飲めるな、とぼくは感心する。
 カップをマスターから受け取った彼女は、それを察したように「別においしくないよ。雰囲気ふんいき」と言った。「前に、たまたまブラック飲んでたら、相子が『みいちゃんかっこいい!』って目をキラキラ輝かせてたもんだから、ま、そういうことかな」にやり、と笑ってカップに口をつけた。
 テーブル席に座っているみいちゃんは、近所の大きな屋敷に住むメイドさんだ。かわいらしいメイド服を、とても格好良く着こなしている。格好良く思えるのは、彼女の凛とした雰囲気のせいかもしれない。彼女の栗色の髪は、外から入ってくる夕日に照らされて、キラキラと輝いている。
「髪、伸ばそっかな」彼女は一人ごちた。「でも伸ばすとめんどくさいし、うーん」ぼくは余計なことだと思いながらも「ぼくは、今のみいちゃんの髪型好きだけどな。短いの」「そっか。ありがと」そう答えて、彼女は窓の外の方を向いた。
 なんとなく、彼女が考え事をしているような気がしたので、ぼくはこっそりとイチゴのショートケーキを二つ注文して、一つを彼女にあげることにした。「おひとつ、どうぞ」「えっ、なに。これ食べていいの?」「うん。どうぞ」彼女は戸惑っているみたいな表情を見せた。そして、少しの間ぼくの目をじっと見た後「お、お言葉に甘えます。ありがと」ぺこりとお辞儀をして、とびっきりの笑顔を見せた。彼女の笑顔が、ぼくはすごく好きだ。
 ぼくは好きなものは最後に食べる方。だから、イチゴは出来るだけ最後まで残す。ふと振り返って彼女の方を見ると、彼女も同じような食べ方をしていて、なんだか面白いな、とぼくは思った。