見える見えない

「こうやって行くなんて話、あたし聞いてなかったんだからね! まったく、あんたはいっつもこう。思いつきで行動するんだから、ホント頭どうかしてるんじゃないの? 普通タクシーでしょ。ハングライダーってどう考えたらなるのよ!」
 ゴーグルをした少女は、風に長い黒髪をなびかせながらハングライダーをうまく操っている。もちろん隣のハングライダーに向かって絶叫しながら、である。
「いやー、あー。まあ、ごめん。ほんとごめん。今回は完全にぼくのミスです。こんなに寒いとは思わなかった」
「そこじゃねえ、あんたそこじゃねえよ! 寒いから文句言ってるんじゃないよ。確かに寒いけどさ。ったく、もう。こうやって女子高生ルックで飛んでるあたしの身になってみなよ。下から丸見えじゃないの。いろんな意味で狂ってる」
「ぼくだって学生服だ」
「ぼくだってって何なのさ! なに張り合おうって思ってるの、見えるっていうの? 何が! どんな風に! 見えないわ! 黙りなさい!」
「す、すみません」
 高層ビル群の間を縫うように、二つのハングライダーが飛んでいる。寄り添うように、しゅるりしゅるりと。
 彼女たちは今日、卒業式なのである。遅刻ぎりぎりだ。