塩谷シュガー「ブラック」
おれが昼にまどろんでいたら、相ちゃんとみいちゃん、ふたりの会話がどこからとも無く聞こえてきた。
「えとえと、内緒なのですけど今日の私はいつもとちょっぴり違うのですぅ」
「へえー。何かしたの? オシャレとか?」
「えへへ。えと、その(赤面)。ごにょごにょごにょ」
「えええっ。黒!?」
めがさめた。
だれも答えはわからない
真っ白のワンピースを着ているその少女は、目の前の鏡の中でひとり立っていた。ぼくは彼女に恋をした。完全に一目惚れである。ぼくは、とてつもなく驚いた。ああ、なんてことだ。ぼくの中に、こんな感情がまだ残っていただなんて。誰もぼくを救ってはくれないのだ。ぼくは必要とされていない。もう人なんて信じない。そう思っていたのに。
ただただぼーっと彼女を突っ立って見つめているぼく。
彼女は鏡の中からぼくに向かって声をかけてきた。不思議そうな顔をして。
「えっと、まず、その、なんで鏡に自分が写ってないことに驚かれないのですか?」
言われて気づいたそのことに。あれ、はて。ぼくは、今、どこに。
まてよ。彼女は、どうしてぼくの、気持ちが、わかるの?
あれ? あれ? あれ?
法則
何かを得るために何かを失うなんて。考えるだけ、馬鹿げてる。そうやってわたしはずーっと思っていたんだけれど、現実において、そういうことは多々ある。何かを得るために何かを捨てなければならない、そういうこともあるのだ。こんなことを考えていると、ふと頭の中で繰り返される記憶は、昔のこと。実験で質量保存の法則を習ったり、エネルギー保存の法則を習ったりしたあの理科室の、何もいない水槽がただひたすらにぽこぽこと空気の泡を出していた、誰もいなくなった放課後の教室のこと。水の乾いた跡が残ってるビーカー。試験管。蛇口に付けられた固くなったホース。ただそこにあるだけで、その場所を印象づけるもの。
わたしは飲みかけのコーヒーをデスクに置く。少し前に届いたメールを読み返して、ため息をつく。やはり、か。数ヶ月前、恋人はアメリカに旅立った。自分に足りないものを見つけるために。そうして、彼は足りなかったものを見つけたのだ。新しい恋人、を。
もちろん、わたしに落ち度があったとしか言いようがない。しょうがない。そういうものだ。そういうものだってわかっている。わかっているのに。泣いてしまう。
わたしは彼を失った代わりに、何かを得たのだろうか。わからない。何かを得たから、彼を失ったのだろうか。わからない。ほんとに、馬鹿げてる。
今日は遠足に行けない。
流行病にわたしはかかってしまって、一人ベッドの中で丸まっていた。あー、もう嫌になっちゃう。明日は遠足だったのに。あーもうあーもう。一般的によく言われる前日の興奮は抑えることが出来なくて、すごくもやもやする。まったく、もう! わたしはうんざりして、早く寝ようとねようといろいろ考える。お布団の中はとても暖かくて心地が良くて好きだけど、今はあんまり好きじゃない。なんだかなあ、って思う。
お布団の中は真っ暗で、いろいろ想像することが好きなわたしはちょっぴり想像力を働かせてみる。そうすると、少しずつ自分の足場が失われて、布団との距離感がなくなってくのを感じた。まるで自分が宇宙服を着せられて、宇宙にほっぽり出された気分になってくる。なんだか息苦しいよ。もう、わたしに酸素が供給されてないことはわかってる。だから、できるだけ呼吸をしないようにしないと。だけど、しちゃう。自分の呼吸する音と、心臓の鼓動する音。それだけが聞こえる。もうわたしがこのまま死んでしまうことはわかってる。だから怖がることはないってわかってるけど、体がガタガタ震えてくる。嫌だ、まだ、死にたく、ない。死にたく、ない。酸素の量がとても少なくなってきたみたいだ。ずっとアラームが鳴り続けている。ぴりりりりり。ぴりりりり。
そしてわたしは、時計の音で目を覚まして朝を迎えた。今日は遠足に行けない。
サイトのリニューアル
お久しぶりですー。山田相子です。
サイト名の短縮と、サイトのリニューアルをいたしましたっ。
デザインも変わったのですけれど、機能面で使いやすくなったり、いろいろ判りやすいようにいたしました(ie 6 さんだと使いづらいのですけれど……ぐすん)。
これからもよろしくお願いいたしますー。ぺこり。